理事長のご挨拶

  • 『理事長より新年のご挨拶』


令和八年の新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
 本年が、会員の皆さま並びに関係各位にとりまして、少しでも明るさと希望を感じられる一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

 昨年を振り返りますと、国内外ともに不確実性が一層強まる中で、企業経営の前提そのものが大きく揺さぶられた一年であったと感じています。また、日本の政治は初の女性総理大臣として高市政権が誕生するという大きな転換点を迎えました。その歴史的意義は大きい一方で、内外に山積する課題に対して、これまで以上に重い責任と覚悟ある舵取りが求められています。

 目を世界に転じますと、国際秩序の動揺はもはや一時的なものではなく、構造的な危機として私たちの経済活動に影を落としています。中国は戦狼外交を一層先鋭化させ、政治と経済が切り離せない状況が常態化しています。
 加えて、アメリカではトランプ大統領が再び政権を担い、「アメリカ・ファースト」を前面に押し出した政策が現実のものとなりました。その中核をなすトランプ関税は、世界経済に対する明確な警鐘であり、国際分業を前提としてきた産業構造そのものを揺るがしています。

 とりわけ深刻な影響を受けるのが自動車産業です。完成車に限らず、部品、素材、内装を含むサプライチェーン全体にコスト増と不安定さが波及し、そのしわ寄せは、価格交渉力の弱い下流工程へと集中します。自動車シート縫製産業は、まさにその最前線に立たされている分野であり、原材料費の上昇、発注数量の変動、納期短縮といった複合的な圧力の中で、現場を支える中小企業の皆さまは、限界に近い状況で踏ん張っておられるのが実情です。

 一方で、ティアワン企業にとっても、関係企業の皆さまの疲弊は決して他人事ではありません。縫製現場の不安定化は、品質や安定供給、さらには人材確保に直結し、最終的には自社の競争力そのものを損なう結果につながります。どこか一層が耐えれば済むという時代は、すでに終わっています。

 さて、昨年の年頭挨拶では「チャレンジ」という言葉を掲げ、制度変化の荒波に正面から向き合う決意を申し上げました。本年は、そのチャレンジが具体的な成果として形を表し始めた年であることをご報告できることを、心強く感じています。

 外国人労働者を特定技能として雇用するために求められる四つの条件、特に基本的人権の尊重に関する監査について、日本ソーイング技術研究協会は経済産業省と粘り強く協議・交渉を重ねてまいりました。その結果、社会保険労務士による監査をもって要件を満たすことが可能となる道筋を確保し、すでに実務レベルで具体的な成果が出始めています。これは、昨年年頭に申し上げたチャレンジが、現実的な解決策として結実した一例であると考えています。

 さらに、本年新たな取り組みとして、トヨタ紡織をはじめとする自動車シート縫製に携わるティアワン企業9社と日本ソーイング技術研究協会によって構成されるサポーターズ会議が発足しました。
 トランプ関税に象徴される外圧のもと、これまでのように各社が個別に対応するやり方では、この危機を乗り越えることはできません。圧力は確実にサプライチェーンの下流へと集中し、その疲弊はやがて業界全体の信頼を揺るがします。

 だからこそ、このサポーターズ会議が必要なのです。
 この会議は、国および産業界の制度動向を収集・分析し、業界として共有すべき情報を整理するとともに、業界一体として対応すべき課題に対して、ばらばらではなく同じ方向を向いて動くための連絡・調整機関として設けられました。誰か一社、あるいは一つの層だけが負担を背負うのではなく、立場の違いを超えて危機認識を共有し、役割と責任を分かち合うための装置です。

 今、私たちに求められているのは、状況を静観することではなく、覚悟をもって現実を引き受け、舵を取ることです。日本ソーイング技術研究協会は、皆さまと気持ちを一つにし、このサポーターズ会議を軸として、現場の声と産業全体の視点を結びつけながら、自動車シート縫製業界が誇りをもって持続的に発展していける道筋を示し続けてまいります。

 数年後に振り返ったとき、「あの年は、業界が一つになり、覚悟を決めて前に進んだ年だった」と語り合える、そんな一年になることを願い、新年のご挨拶とさせていただきます。

 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 
 令和八年 元旦
                   日本ソーイング技術研究協会
                      理事長 御園 愼一郎